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一級建築士事務所の
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一級建築士事務所の看板を掲げる「設計事務所」はたくさんありますが、大きく分けると異なる性格の2種類の設計事務所があるのをご存知でしょうか?
その2つというのが業界専門用語でいうところの「アトリエ系設計事務所」と「組織系設計事務所」です。もちろん、この2つ以外にも工務店や工事会社の設計部門等も含めて設計事務所のタイプはもう少しありますが、業界的に大まかにわけた場合は、このアトリエ系と組織系というのが2大分類とされています。
(3つあるというタイトルの理由は、最後にご説明します。)
一級建築士事務所については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。あわせてご覧ください。
「一級建築士事務所とは?そのほかの建築士事務所とは何が違うの?
「個人の建築家が主宰する建築設計事務所のうち、特に建築家個人の作家性を強く反映した設計を行う設計事務所に対する通称である。組織系建築設計事務所としばしば比較される。アトリエ系という呼称は、建築家磯崎新が自身の設計事務所の設立に際して「磯崎新アトリエ」と名付けたのがそもそもの始まりである。これは当時主流であった「建築設計事務所」という呼称に抵抗を感じ、芸術家のアトリエのような個人の製作場所を指向したのが理由とされる。次第に追随する設計事務所が出始めたため、この呼称が広く定着していった。 」
出典:wikipedia
なんと2019年に建築家のノーベル賞とまで言われれるプリツカー賞を受賞された、あの磯崎新(いそざきあらた)先生が由来だったんですね。
では、一方の組織系の建築設計事務所はどうでしょうか?
「組織系建築設計事務所は、設計専業で特に規模の大きな建築設計事務所に対する通称である。アトリエ系建築設計事務所としばしば比較される。一つの建築設計事務所で、意匠・建築構造・建築設備・エンジニアリングシステムなどを計画・設計することが可能であり、さらに建築工事現場における監理もできるという特徴を持つ。(中略)その反面、アトリエ系事務所に比べると、経済効率や信頼性が優先される傾向にあるため、実験的なデザイン等を自由に行うことが少ない。しかしながらデザイン性に劣るというわけではなく、堅実なデザインを得意とするという側面が強いといえる。なお組織系事務所出身のアトリエ系建築家も少なくない。」
出典:wikipedia
これに厳密に従うと結構な規模の専業の大手設計事務所でないと「組織系」とまでは呼べないということになってしまいますが、業界的にはそこまで厳密にこだわって使われるケースは少なく、アトリエ系に多い個人事務所的な規模より大きい中小の設計会社であればざっくりと「あそこはアトリエ系じゃなくて組織系だよね」といった感じで使われていると思います。
ただその場合でも意識して使われているのは企業の規模よりも「オリジナルなデザイン・意匠」を重視しているような事務所かどうかという設計事務所のポリシー、フィロソィー的な分類のされ方が中心です。
アトリエ系建築設計事務所はやはり個人事務所的な規模の設計事務所が多い訳ですが、なぜ「アトリエ系」の特徴である「意匠・デザイン」に特にこだわるのでしょうか?
アトリエ系設計事務所に入る設計士の最終目標は「有名建築家」となって先生になることという夢があるからというのもあるかもしれませんが、もうひとつは「受注競争に打ち勝って食べていくため」という切実な理由もあったりします。
個人設計事務所とは実はじっとしていれば設計の仕事がどんどん舞い込んでくるような甘い商売ではありません。有名な先生の事務所は別として、多くの無名のアトリエ系の個人事務所の規模ではやはり組織系と違って最初からビルやマンションをドンドン受注できるという訳ではなく、絶対的な建築ボリュームがある個人の注文住宅等の設計をいかに受注するかといった競争があります。
その競争に勝つための一番の武器が「デザイン・意匠」なのです。結局は法規に沿ってやるべきことをきちんとやるという設計の基本部分では専門知識のない一般個人の施主に対して他の設計事務所と差別化して主張できる部分が殆どなく、最後は「いかに施主好みのデザインをプレゼンするか」で受注が決まるケースが多いからです。
その証拠に「一級建築士事務所」の公式サイトの殆どがいかにデザインセンスの良さをアピールするか、いかに過去の設計実績の建築のデザインの良さをアピールできるかに腐心していることからもわかるでしょう。
アトリエ系個人設計事務所の主戦場である個人住宅市場に組織系設計事務所が大挙して営業しにくると、それでなくとも大手ハウスメーカーとの競争もある中で個人事務所は大変なことになりそうですが・・・実は組織系設計事務所の中では個人住宅等の受注に消極的なところもあります。
なぜかというと、まずは組織系設計事務所は特に自分たちが営業せずとも大きな設計案件が舞い込んできて忙しいというのがあります。
そしてもう一つは組織系設計事務所からすれば「施主の好みを聞いて建てる個人の注文住宅は儲けの割に面倒な仕事」という位置づけだからです。
組織系では分業された業務の中で型にはまった業務を着実にかつ、たくさんこなしていくという性質の仕事が多い一方、個人住宅ともなると実は「クレーム商売」と言われるほど施主のデザイン的な好みや希望を聞きながら設計していくという手間と時間がかかります。
特に個人の好みに合わせたデザイン・意匠を考えて施主の納得するものを建てるというのは施主自身も明確な答えを最初から持っている訳ではありませんからなかなか大変な仕事です。
つまり他にも設計の仕事がたくさんあるような組織系設計事務所が敢えて個人住宅の設計市場に乗り込んで受注競争をしたい理由がないのです。
さて、ここからが問題ですが個人や中小企業が保有するような中小規模の賃貸ビルはどこに設計を依頼するのがいいのでしょうか?
とにかく予算はいくらでもあるのでデザインに徹底的に凝った賃貸ビルを建てたい、ということなら有名な先生のいる著名なアトリエ系建築設計事務所にお願いするのがいいでしょう。
しかし賃貸ビルを建築する場合多くのビルオーナー様にとって最も大事なことはやはり長期に安定稼働するかどうか、また資産運用として高い収益性のある収益物件にできるかどうかという投資家的な立場での設計が重要なはずです。
そこで問題なのが有名な先生に高い設計料を払いたくないけれどそこそこデザインにこだわったお洒落なビルを建てたい、だから気に入った実績写真が掲載されているアトリエ系の個人設計事務所に依頼したいというケースです。
先ほども述べたように多くのアトリエ系設計事務所は意匠・デザインで差別化して受注競争に打ち勝つ必要があるので個性的で美しいデザインの住宅は設計できるはずですが、事業収支が大事な賃貸ビルの設計の経験が豊富とは限らずそのような設計をするとメンテナンスが大変だとか、長年の間に問題が起きるとか、その立地でそういう個性的デザインではターゲット顧客層を狭めすぎてしまうとかそうした賃貸ビルに必要な設計ノウハウに明るくないといった設計事務所かもしれないのです。
意匠にこだわる設計事務所に依頼するとデザインが目立たないと次につながらないからと必要以上に凝ったデザインにするケースもありますが、施主としてもその個性的なデザインに目がくらんで依頼した結果建築コストが膨らんだ割にテナント側から見ると使いづらい建物になっていて、かけたコストに見合った賃料を取れないビルになるといったケースもあります。もちろん建築の面白さはこうしたこだわりのデザインの建物を建てるというところにもあるので、それを納得の上で建てるなら全然問題はありません。
しかし「デザインにもこだわりはあるが事業収支は大事」というビルオーナー様であれば、やはり見た目のデザインと事業収支の両面から納得できる提案ができる設計事務所を選ぶことが大事です。
アトリエ系事務所ではその事務所の代表者のデザインセンスで勝負するため、これは建築物に限らずだんだんと誰が設計したかがわかるようなその設計者、先生のカラー、テイストを売りにするような方向性に絞っていく傾向があります。
自分の「意匠スタイル」をなるべく崩さないようになっていくために敢えて柔軟な「商業デザイン」から少し「アート」寄りなデザインをする傾向があり特定のファンには凄く刺さるビジュアルデザインだとしても、賃貸ビルとしては貸しづらかったり建築費用が高くついたり管理費用面で不利だったりという個性的なデザインになってしまうケースもある訳です。
最近の誰でも知っている一番わかりやすい事例で言えば、当初の国立競技場の「ザハ・ハディッド」の宇宙船のようなデザインです。個人的には未来感のある造形で嫌いではありませんでしたが、建築コスト等の問題で没になってしまいましたね。
もちろん現在の隈研吾さんも木や森の自然を感じさせるというスタイルで採用された世界的な巨匠なのでアトリエ系の先生な訳ですが、このように美術館や競技場のような公共建築物は、まさに個性的なビジュアルが重要なためアトリエ系の先生方が独壇場となるような建築物の一つです。
梓設計さんのような大手組織系事務所と組んでいるという点ではハイブリッドなチームで設計しているとも言えますが。
では組織系の設計事務所のビジュアルデザインはアトリエ系よりもセンスが悪くてデザインクオリティの低い設計でもいいのでしょうか?
金太郎飴のような普通の建物をベルトコンベヤ式でたくさん作るのだから建物の見栄えなんてどうでもいい、法律に沿った内容で容積率を可能な限り消化することが何よりも大事なので見栄えなんてまあまあ良ければ十分、ということでいいのでしょうか?
私は建築物の空間の見栄え=ビジュアルデザインというものは、実は人間が心地よく過ごすための重要な「機能」の一つだと考えます。人間を、360度真っ赤な色で塗った部屋に何日も閉じ込めるテストをするとストレスで精神が病むという話もあるくらい(このようなテストは都市伝説のような話で真実ではないようですが)人間にとって、建築物や室内空間のデザインというものは重要なはずです。
つまり誰かの個人的な好みではない多くの不特定多数の人に向けた賃貸ビルのような普通の建物にこそ多くの人が心地よさを感じる「普通よりちょっとおしゃれ感」のあるデザインであるべきだったり、商業ビルであればあまりに個性的でないまでも通りの中で目を惹くデザインが必要だったりする訳ですから、「組織系設計事務所」だからデザインセンスは悪くてもいいなんてことには絶対にならない訳です。
むしろそのような多くの建物を量産する「組織系設計事務所」はアトリエ系のような個性的なデザインで勝負できないからこそ、シンプルで洗練されたハイクオリティなデザインを限られた予算の中で創り出すという高度なデザインセンスを必要とするのが本来の姿だと思います。
組織系の設計事務所だから見栄えにはこだわらない、適当でいい、デザインセンスなんて必要ない等と誤解している設計士がもしいるとすれば、ロクな建物は設計できないと思った方がいいのではないでしょうか?
そういう人が設計したものは、先ほどの「まあまあ良ければ十分」というのが結局は「ダサい」感じになるのが目に見えています。
「ミース・ファン・デル・ローエ」の言葉としても有名な「神は細部に宿る」という意味を理解していない設計士がいるとすれば、組織系であれ、アトリエ系であれいつまでたっても一流の設計士さんにはなれないでしょう。
設計事務所は「アトリエ系と組織系の2つ」と言ってたのに、そんな設計事務所ってあるのでしょうか?
つまり「アトリエ系と組織系のいいところを両方持った設計会社」がいいということで正式な業界用語ではありませんが、私が独自に「ハイブリッド系」と名付けてみました。
そういう訳で「ハイブリッド系設計事務所」とかでネット検索してみても意味も事務所も出てはきませんが「賃貸ビル」で大事なのはそういう長期的な事業収支、メンテナンスも考えた「機能美」を追求する「ハイブリッドな設計の考え方」だということです。
それができる賃貸ビルの設計ノウハウを持っていて、なおかつ「ハイセンス」な「機能美」デザインも得意な設計事務所、それがタイトルに書いた「3種類の設計事務所」の最後の3つ目、それが「アトリエ系と組織系のいいところを両方持った」、言うなれば「ハイブリッド系設計事務所」です。
先ほどは「組織系設計事務所」はアトリエ系と違って、個性的すぎないデザインでも勝負できるだけの洗練されたデザインセンスが必要と書きましたのでそういう意味では「ハイブリッド」という言葉は必要はないのですが、ここはわかりやすく敢えて「ハイブリッド系設計事務所」という造語を作ってみた次第です。
「アトリエ系」でもない「組織系」でもない設計事務所は意外と少ないことがお分かりいただけたかと思います。
株式会社アドバンス・シティ・プランニングでは事業収支とデザインのバランスを重視した設計実績が多数ございます。また設計事務所を原点とした総合管理会社として、様々な規模や用途のご提案が可能です。お困りごとやご要望等ございましたらお気軽にお問い合わせください。
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