築19年になる外観のガラス張りの意匠が印象的な2棟(ノース・サウス)建ての商業ビル。何度か漏水に悩まされてきたこともあり、今回徹底的な改修工事を行いました。ビルを所有している北辰不動産株式会社の担当者と、修繕を請負った株式会社アドバンス・シティ・プランニング(以下ACP)の担当者に話を伺いました。
―駒沢パークサイドテラス(ノース・サウス)の修繕工事について、経緯を教えてください。
山本(北辰不動産・アセットマネジメント部/工事発注側):この2棟は過去にも1階や地下のテナントがびしょ濡れになったりしたことがあり、漏水する確率がすごく高いということがわかっていました。過去の漏水時には二重壁を作る対応を行いました。しかしこの2、3年の間で天井や窓枠周りから水が漏れてきたりしてきました。その根本的な原因がわからない状態だったので、徹底的な調査を含めた修繕を依頼することになりました。調査、計画、予算を立てて実行するという流れです。
―何度か工事が行われているのは計画的なものだったのですか。
山本:先ほども申し上げた天井や窓枠周りからの漏水は、突発的な予期せぬ漏水です。計画には入っていませんでしたが、対応が必要な事態でしたので工事を行いました。
―計画した工事を実施している間に突発的な漏水が発生して、その都度急な対応に迫られたということですね。もともとの全体的な計画はどのようなものだったのですか。
森峰(ACP・建築課/工事請負側):外壁の意匠ルーバー箇所でサッシ周りからの漏水や、テナントが出た後に判明したものなど、漏水現象が散見されました。まずはその水が入ってきている箇所を直しました。このビルは2棟同じ作りなので、サウスで実施した工事と同じ工事をノースでも実施しました。しかしその後も雨の多い時期に別の箇所から漏水が発生することがありましたので、原因箇所を特定するために散水試験を行い、特定できた箇所を工事して直すことになりました。
―見た目綺麗な建物ですけれど。
森峰:意匠的にはカッコ良くて綺麗なのですが止水的に収まりが難しい造りなんですよね。例えば外壁の素材がRCなのかALCなのか、アスロック板(中空セメント板)なのか、パネルで納めているだとか、造りによって漏水が発生しやすさには違いが出てきます。
―漏水が発生した時、テナントさんはどうなったのですか。
山本:直近で窓枠から漏水した時には、たまたま窓枠周りに高額な商品や機器が置いてなかったのと、ACPが素早く対応してくださったこともあり、大きな問題にはならずに済みました。特に補償が発生することもなかったですし、関係も悪くなることなくまだ借り続けてくださっていて今に至っています。
―初歩的な質問ですが、漏水の調査方法はどのようにするのですか。
森峰:散水栓からホースをつないで部位ごとにシャワーをかけて確認します。シャワーをかける人と室内にいる人で、連絡しあいながら部位を確認・記録していきます。その結果をもとに修繕計画をたてます。
原因特定で難易度が高いものでは、例えば散水しても室内に水が入ってこないのに、雨が降ると入ってくるようなパターンがあります。
建物内の水のまわり方が多岐に渡るのに加えて、雨はただ上から降るだけでなく、風で横からだったり巻き上がったりもするので、それらを想定することが必要になります。したがって散水もいろいろな角度から行います。
―散水以外にも漏水調査の方法はありますか。
森峰:色水を流したり、煙、あとは電極を使うものなどがあります。
電気抵抗試験は漏水しているところと、その原因と思われる箇所に電極棒を当てて電流を流して場所を特定する検査です。ただ、これらの方法はどれも調査費が非常に高いです。20~30万円くらいはかかってしまいます。
―調査方法の使い分けはどのようにするのですか。
森峰:色水が有効なのは木造の建物ですね。しかし如何せん費用がかかるので、結果的に散水で調査を行うことがほとんどです。
それ以外で最近行ったのはドローンを使用した調査です。ドローンを飛ばして一か所ずつ細かく写真を撮影していきました。
結局のところ、早くて安い調査方法だと散水になってしまうんですよね。散水のスキルはかなり磨かれています(笑)。
―ちなみに散水とそれ以外の調査方法ではどれくらいの金額の差が出るのですか。
森峰:もちろん場合によりますが、おおよそ散水で3~5万くらいですが、工事の一部として組み込まれた金額になります。色水だと25~30万円くらいになるかと思います。
―10倍くらいになってしまうのですね。しかも色水を使っても特定できない場合も、もちろん可能性はあるわけですよね。
森峰:そうですね。
―なるほど。やはり散水が基本的に最適な調査方法になってくるわけですね。
森峰:構造や外装材を考慮して、水がどのように入ってくるかをイメージした上で散水を行います。水がすぐ出てくるのか、ゆっくり時間をかけて出てくるのか。その様子からどのような経路で水が漏れてくるのかを考えていきます。
山本:建築的な目線が欠かせないのですね。
森峰:その通りです。めったやたらに散水してもダメで、納まりを見極め、あたりをつけて散水を行うことが必要です。
―調査を発注する立場からして、そのようなスキルは他社と比べて違いは感じますか。
山本:厳密に他社と比べる機会はあまりないのですが、実際にACP建築課に依頼すると図面の読み込みは早いですし、実績数も多く、何より建物のことをよく理解してくれた上で迅速に工事を行ってくれるのが強みだと感じます。
業者によっては原因特定だけでかなりの時間がかかってしまったりするので、建築に対する知識とにスピード感でいつも助けてもらっています。
―駒沢パークサイドテラスの工事に関して、オーナー側からとして何か特別な要望はありましたか。
山本:大きな費用がかかる規模の工事なので、計画的に年をずらして行ってほしいという要望を出しました。例えば一気に1000万円の工事を行うのではなく、300万、300万、400万というふうに段階的に進める感じです。
漏水対策が必要な優先箇所の選定、かつその年に使える予算でやれる工事計画の立案をお願いしました。
―なるほど。工事をする側からすると本当は一気に進めた方がやりやすいということはありますか。
森峰:正直に言うと一気にやる方がやりやすいですね。なぜなら足場を組むので、一度にできる範囲はやってしまいたいというのはあります。
ただオーナー様にとって予算の立て方や他のビルとの兼ね合いがあるのは当然ですから、ここを一気にやらせてくださいと一方的に都合を通すようなことはありません。要望に添いつつ最適な工事内容になるように提案します。
山本:「まずここはやらないといけない」「ここは近いタイミングでやった方がいい」といったように優先順位をつけてもらいます。
―そのように工事を段階的に分けるのはオーナーが法人という特有な事情ですか。
森峰:「この先20年くらいメンテナンスに手間がかからないようにしてくれ」、あるいは「売却を考えているからそこまで費用をかけたくない」とお客様の事情もまちまちでいらっしゃいますので、どこまでの改修を希望されるかによって提案内容が変わります。期によって工事を分けるのは一般のオーナー様ではまずないですね。
一般のオーナー様の場合、例えば「外壁」をやって、今度は「設備」とカテゴリーごとに修繕計画の提案で、順を追って進めていくパターンはあります。ただ繰り返しになりますが、ビルの状況やオーナー様の要望は一件一件異なります。
山本さんも言ってくださったように、我々の強みは詳しいヒアリングとともに建築的な目線から綿密な調査を行い、スピード感を持ってオーダーメイドの改修工事のご提案ができることだと自負しています。
―建築の知識と原因特定調査のスキルで、難しい漏水でもビルごとの事情にあわせて要望に応えていくのですね。ありがとうございました。