2019年12月12日

住居系とは異なる魅力│事業系・商業系一棟ビル投資の特徴とメリット・デメリット

一棟の投資用不動産というと、マンションやアパートなど住居系一棟物件を思い浮かべるという方が多いのではないでしょうか。 実際に、専業ではないサラリーマン大家さんのような投資家の多くは住居系の一棟物件を選んで保有しています。

同様に、オフィスや店舗などがテナントとして入る事業系・商業系一棟ビルについては、どちらかというと不動産業者や専業大家などの玄人向けという印象が強いと思います。

今回は、そんな事業系・商業系一棟ビル投資について、住居系との違いとオーナー側から見たメリット・デメリットについて解説します。(この記事では、住居系を「一棟マンション」として、事業系、商業系を「一棟ビル」として表記します。)

 

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一棟ビル投資のメリット

一棟ビル投資には、一般的に下記のようなメリットがあります。

①住居よりも高い賃料(坪単価)~人が集まる地価が高い立地に建てられるから

賃料については、一般的に住居系より事業系・商業系のほうが高い傾向にあります。駅前立地といった高い利便性や希少性はテナントにとって大きな魅力であるため、高額な賃料として反映することが可能ですが、その傾向が事業系・商業系ではより顕著になるためです。また、事業系・商業系で優良テナントを誘致できた場合、物件自体の資産価値の向上も見込めるため、さらなる賃料のアップも期待できます。

事業系、商業系は基本的には用途地域も商業、近隣商業地域に指定された人が集まりやすいエリアであり、高い地価に合わせて賃料単価も高く設定しなければ採算に合わないとも言えますし、逆に賃料を高くしてもテナントが集まる集客力ある立地であるとも言えます。
賃料単価が高いにもかかわらず、投資利回りで見た場合は、必ずしも住居系ビルよりも高いとは言えないケースも多くあります。駅前好立地であればそもそも地価が高いこともあり、築30年を超えていても利回り5%台は珍しくなく、中には築40年を超える旧耐震でも都心一等地ともなると3%とか4%台の物件もあります。デメリットでも触れますが、商業系ビルは退去リスクが住居系よりも高い傾向にあり、高額な賃料は退去時に利回りを大きく下げる要因になります。テナント需要を考慮した立地の選定が重要になると言えるでしょう。

但し利回りが低い、高いで、投資として優位性が高いとか低いとかを決めることはできません。利回りとは、リスク要因の反映の結果でもあるからです。

いずれにしても、住居系だから利回りが事業系より高いとか、低いとかの単純な構図で述べている事例が散見されますが、「利回り」とは様々な要因が絡み合って形成されるものであり、特に、個別性の強い一棟ビル、一棟マンションにおいては、深い見方、理解が進むにつれて、住居系だから利回りが高いとか、低いとか、そういう論調自体がナンセンス、ということがわかってくると思います。

②住居よりも高い敷金・保証金

住居系物件では敷金は概ね月額賃料の1〜2ヶ月分であることがほとんどです。一方オフィスや店舗での敷金にあたる保証金は3ヶ月〜1年分と、業態やエリアなどによって大きく開きがあり、一般的に退去リスクが比較的高いテナント(店舗など)ほど高額になる傾向にあります。保証金は敷金と同じく未払い賃料の補填などに使われる点は住居系も事業系・店舗系も違いはありませんが、保証金の場合、契約によっては解約時に償却され、全額返還しなくてもいい場合があります。

また、保証金はある程度まとまった金額になり、オーナー側で借り入れ負担を減らしたり運用して増やすことも可能なため、高い保証金はメリットになります。

ただし、運用に失敗して手元資金を無くした状態で退去されると保証金返還ができない事態になることもありますので、不測の事態に備えて安全な運用を心掛ける方が健全なビル経営スタンスと言えるのではないでしょうか。

実際に、ビルの核テナントが急に退去することになり、多額の保証金の返還に困ってビルを手放さざる得なくなるビルオーナーの事例もあるくらいです。

③原状回復費を抑えることができる

国土交通省によるガイドラインにより、住居系の原状回復については、オーナー負担の範囲が決められています。通常の使用による劣化についてはオーナー負担と考えておいた方が良いでしょう。対して、オフィス・店舗の退去時にはテナント負担による原状回復が基本です。住宅とは異なりオーナーが支出する必要がないのが魅力ですが、賃貸契約時の条件によっては原状回復せずに退去する場合もあります。その場合は、オーナー負担で原状回復をするか、居抜きで新規募集を行うことになります。

居抜きであれば新規テナントの入居時費用を抑えることが可能なため、リーシングがしやすくなる半面、対象の業種を絞ってしまいます。賃貸需要の見極めなど、オーナーの判断が重要になります。

一棟ビル投資のデメリット

一棟ビル投資には大きなメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。

①住居よりも高い空室リスク

空室リスクについては、一般的に住居系より事業系・商業系ビルのほうが高い傾向にあります。マンションやアパートは1戸当たりの専有面積がオフィスや店舗よりも小さい場合が多く、たとえ一部屋空室が出たとしても全体の賃料収入からすると大きな割合ではありません。反対に、一区画が大きいオフィスや店舗のビルの場合、1テナントの退去で賃料収入が大幅に減ってしまい、利回りに大きな影響が出る恐れがあります。

また、どんなテナント構成にするかは売却時の価格にも影響しますから、いいテナントを入れようと相手を選ぶ場合、空室期間が長くなってしまうケースも珍しくありません。ビルの資産価値を高く維持するうえでは、テナントの業種や業績、財務内容まで審査してこだわるという姿勢が大事になってきますので、その分の空室リスクも覚悟して経営する必要があります。

また、特定の業種に特化した設備や構造のビルの場合、テナント再募集が難しく入居が決まるまで時間がかかりがちです。リーシング業務を行う業者の力量も大きく左右しますので、商業ビルのテナント誘致に十分な経験とノウハウがある管理会社をパートナーにすることが大事です。

②景気動向による賃料変動のリスクが大きい

景気動向のリスクについては、当然ながら住居系より事業系・商業系のほうが影響を受けやすい傾向にあります。不動産投資のメリットの一つとして家賃の急激な乱高下が起こりにくく、賃料収入が景気に左右されにくいことが挙げられますが、これは住居系についての話で、商業系のビルについてはむしろ景気動向に左右されやすいのが特徴です。店舗や事務所は業績が悪くなると比較的すぐに移転・閉店してしまいます。景気動向によっては複数の店舗や事務所が一度に退去してしまったり、最悪の場合倒産によって賃料を回収できない恐れもあります。

ただし景気については逆の場合もありえます。景気が良くなれば住居よりも大幅な家賃の値上げができる可能性があります。したがって、必ずしもデメリットとは言えないかもしれません。

不動産投資では、何でもメリット、デメリットという分け方で無理に論じようとすると、合理性の低いロジックになりがちですので、多面的な見方で本質を理解するように心がけるといいでしょう。

③高額になりがちなバリューアップコスト

住居系の物件は築年数の経過とともに賃料が下落していく傾向にありますが、設備の劣化やトレンドと大きく乖離しはじめた場合は、リノベーションによりバリューアップしていくことで賃貸需要や賃料の下落を抑えることも可能です。バストイレ等の水回り交換まで含めたリノベーションでは相応のコストがかかりますが、リノベコストを抑えて内装デザインのテイスト変更程度でも有効なケースが多いです。 対して、オフィスや店舗は、住居系ほどトレンドの変化は有りませんが、逆に、退去後の賃貸付けに関しては他物件との差別化が重要になってきます。差別化の方法として抜本的なバリューアップを考えた場合、オフィスや店舗ではOA仕様のフロアや大きな電気容量、セキュリティ設備など物件スペック自体の改善工事や、あるいは内装デザインの大幅なイメージチェンジ等まで行う等、程度によって工事費用も大幅に異なりますが、住居よりも工事面積が大きかったり、設備改善の工事単価が高いものがあったりするため、工事の費用総額は住居系より高くつく傾向にあります。どこまで何をやるか、ということも費用対効果を考えると住居よりも難しい判断が必要です。

④融資の審査

一般的に住居系よりも事業系の一棟ビルの方が、金融機関による融資審査が厳しく見られる傾向があると言う人がいますが、単純にそういう図式で融資が受けにくいということではありません。これは物件としての担保価値が低い、という意味ではなく、住居よりも長期的な事業収支の予測が不確実で判断が難しい要因が多いからです。さらに立地についても、すぐ近くの物件でも通りがが異なるだけでテナント誘致力に大きな差が出たり、ビルのスペック等でも賃料に差が合ったりと、住居系よりも物件評価が難しいからという理由もあげられます。よって好立地で長期安定稼働が容易に推定できるようなビルであれば、融資審査でも容易に高い評価を受けることが可能です。但し、事業系のビルの場合は入居している(もしくは入居予定)のテナントの属性について住居系よりも厳しくチェックされる傾向にあります。反社会的勢力はもちろんのこと、風俗店やパチンコ店も敬遠される場合が多いです。また、テナント企業の経営状態も審査の対象となります。一般的に個人投資家がテナントの経営状態まで詳しく把握することは難しく、事業系の一棟ビル投資が玄人向けと言われる理由の一つでしょう。いずれにしても、住居系は担保評価が甘く、事業系は厳しい、とかの単純な認識ではなく、どこが厳しく評価されて、どこが高評価を受ける部分なのか、という具体的な内容を知っておくことが大事です。それによって、住居系でも事業系でも、自分で物件を見る目も養われてきます。

まとめ

いかがだったでしょうか。不動産投資は資産運用の方法としてはミドルリスク・ミドルリターンと言われることが多いと思いますが、その中でも事業系の一棟ビル投資はややハイリスク・ハイリターン寄りと言えるかもしれません。住居系よりも高い賃料収入が期待できるという点では大きな魅力ですが、微妙な立地の物件を高値掴みして後悔するようなケースは事業系に多いかもです。リスクを把握した上で立地や出口戦略など比較検討するようにしましょう。

 

この記事を書いた人

C+One 編集部
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