近年、新型コロナウイルスを中心とした世界情勢の影響で、物価がどんどん上がるいわゆる「インフレ(インフレーション)」が進んでいます。このまま行くとインフレがより進んだ「ハイパーインフレ」が起こるのではないかと言われています。
インフレという状況下で自分たちの資産はどう守ればいいのか?
インフレと資産防衛の観点から解説しています。
インフレとは食料やサービスなどの「価格が上昇する現象」のことで、たとえばそれまで「100円」で買えたジュースが「200円」に値段が上がることをいいます。
なお、インフレと逆に「価格が下降する現象」はデフレ(デフレーション)といい、日本においてはデフレの時代が長く続いていたともいわれています。
ハイパーインフレとは、国際会計基準の定めでは、「3年間で累積100%以上の物価上昇」としています。
日本でも戦後の混乱期、1945年から1949年にかけて物価がおよそ70倍になったハイパーインフレが発生しています。
国債で賄った戦費の支払いに加え、戦争により働き盛りの労働者が減り、工場や機械も空襲で破壊されるなど生産力が低下したことや天候不順による不作が重なることで日本円の価値は急速に下落。結果、日本はハイパーインフレに突入しました。
ハイパーインフレはGHQの政策などによって収まりましたが、逆にデフレ不況に突入。不安定な経済状況は続きましたが1950年に始まった朝鮮戦争の特需により一気に景気が回復し、その後の高度経済成長に繋がっていきます。
海外でもドイツやジンバブエなどでは、ハイパーインフレが発生したことがあります。
ドイツは第一次世界大戦の敗戦によって発行した国債の支払いや多額の賠償金を求められたことに加え、生産拠点である工業地帯を占領されたことで働き口のなくなった労働者に大量に貨幣を発行したことなどで通貨の価値が暴落。ハイパーインフレを引き起こしました。その結果経済は大混乱し、後の第二次世界大戦の引き金の一つとなったと言われています。
ジンバブエでは、2000年代に政策の失敗による農業の崩壊や富裕層の海外脱出、大統領選挙をめぐる混乱などで紙幣を過度に発行したことなどによりハイパーインフレを引き起こし、2008年11月には前月比796億%という驚異的なインフレ率を記録したこともありました。
また、ハイパーインフレにより通貨の価値が下がりすぎたことにより、「100兆ジンバブエドル」が登場し経済が大きく混乱しました。
世界的に見ればインフレの流れはありますが、日本でハイパーインフレが起こる可能性は限りなく低いと言われてきました。ハイパーインフレが起こるのは戦争や国家規模の災害などの大きな出来事で、供給が一気に落ちたときなどのよほどの緊急事態など条件が限られるためです。
しかし、長引くコロナ禍による日本の財政の悪化、さらにロシアのウクライナ侵攻による原油や穀物の流通減。それに伴い円安による輸入品目を中心とした物価の上昇が続く中、今後ハイパーインフレが起こる可能性は上がってきたと考える専門家もいます。
とはいえ、他国に比べて日本でハイパーインフレにつながる可能性は依然低いと思われますが、万が一起きた場合も考えておいた方が良さそうです。
ハイパーインフレの例やインフレにより物価が上がる点をみると、「インフレ=良くない」と思う人もいるかもしれません。
でも、インフレは必ずしも悪いことではありません。
インフレになるとよく起こるのが「円安」です。円安になると、輸出による収益が増えたり、海外からの観光客が増えるなどのメリットがあります。
たとえば「1ドル=100円」が「1ドル=130円」になるイメージですが、これは観光客からすれば、同じ1ドルでも円安の方が30円お得なのでメリットになります。
デメリットはこの逆で、輸入品の値段が上がったり、日本から海外旅行に行ったときに現地での買い物が高くつくことです。
インフレには良い面も悪い面もあります。
「現金」を筆頭に「保険」「年金」が挙げられます。
特に現金はインフレに弱い資産として真っ先にあがります。
現金は手元に置いておくだけで増えるものではないですし、普通預金や定期預金を活用しても受取利息が低すぎて、インフレのスピードについていけません。
なお、利息が低い点は国債も同じで元本割れのリスクは少ないですが、資産の増え方はインフレには遠くおよびません。
保険は例えば死亡したときに1,000万円を受けとる契約をしたとして、数十年後に死亡して1,000万円を受け取るとしてもインフレが進んでいると、今の基準の1,000万円は未来では価値が落ちている可能性が高いです。
年金は給付額を社会情勢に合わせて決める「マクロ経済スライド」を採用しています。
参照:
給付と負担をバランスさせる仕組み マクロ経済スライドってなに?|厚生労働省
マクロ経済スライドによると、社会情勢に合わせるためある程度はインフレも考慮されますが、それでも「賃金や物価が上昇するほどは増やさない」と記述があります。
そのため、インフレによる物価の上昇に追いつくほどの受給額は期待しにくいです。
現金も保険も年金も元本割れなどのリスクは低い一方で、「インフレによる物価上昇に追いつけない」という点は共通しています。
ただし、このあとふれるインフレに強い資産は価値が上がりやすい一方で、元本割れや価値の大幅な下落などのリスクもあります。
持っている資産をすべてインフレに強い資産に置き換えるのではなく、インフレに強い資産とインフレに弱い資産を半分ずつなどバランスは保つようにしましょう。
インフレに強い資産は主に「株式」「投資信託」「金(貴金属)」「不動産」です。
株式(株)や投資信託は「有価証券」というくくりに入りますが、インフレで物価が上がることで会社の収益も伸びる傾向にあります。
株価や投資信託は物価や収益と連動するように上がることが多いため、インフレによって株や投資信託の価値が目減りすることは少ないとされています。
特に株は株価の上がり方次第では配当金などで高い収益も期待できますが、逆に株価が急に下落したときのリスクも高いです。
また、株の選定が非常に重要で企業の業績や業界の今後など様々なことを考慮したうえで株を決める必要があります。
そのため、株の選定にはある程度の時間もかかります。
企業によっては、その企業のサービスを格安で受けられるなどの「株主優待」を設けている企業もあるので、特典次第では考慮する余地もあります。
投資信託は株と違い銘柄の選択など細かい運用はプロに任せられるので、忙しい人でも投資ができます。
逆に株ほどの大きなリターンは期待できない一方で、リスクも小さいため安定性を求める人に向いています。
ただし、投資信託は購入時にかかる「買付手数料」、保有中に引かれる「信託報酬」や売却するときにかかる「信託財産留保額」などの手数料がかかるため、投資信託を選ぶ際には実績や知名度だけでなく、手数料の面も考慮することをお勧めします。
金や不動産は「現物資産」とも呼ばれ、物に対しての価値です。
金や不動産以外にも、骨董品や芸術品、自動車なども現物資産に該当します。
株価は経済や世界情勢などの外部要因によって価格が変化することがありますが、金や不動産は物自体の価値でインフレなどの不安定な状況下で買われることも多く、世界情勢などによって価値が下落しにくいといわれています。
特に金はどんな環境下でも価値が変わらない安全資産ともいわれており、人気もあります。
金や不動産などの現物資産は、今後価格が上がる可能性や安定性も高いためインフレに強い資産として挙げられます。
また、金は長期保有をしながらも売るタイミングを見極める必要がありますが、不動産は売却による利益に加えて、入居者を集客することで「家賃収入」を毎月安定的に得ることもできる点はメリットです。
インフレになると物価(物価指数)が上昇する傾向がありますが、物価が上がることは緩やかではありますが家賃の上昇にもつながります。
不動産を所有して入居者がいれば家賃収入が得られますし、インフレによる物価上昇の恩恵を受けることができれば、家賃収入の増加にもつながります。
特に都心のオフィスビルを所有していれば、立地などによっては高い家賃でも集客につながることもあるため、高い家賃で設定している不動産もあります。
不動産に限らず現物資産と呼ばれるものは全般的に、現金や貯蓄、有価証券などと比べると価値が下がりにくいといわれています。
不動産(建物)は年数が経つごとに価値が下がる「減価償却資産」の一つで、ここでポイントになるのが「耐用年数」です。
例えば、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造の住宅は耐用年数が47年とされています。
この47年かけて徐々に資産価値が下がっていくため、急な価値の下落もなく不動産は価値が下がりにくい資産といえます。
また、都市部や駅が近いなど立地のいい場所にある不動産であれば、需要が落ちにくい傾向にあります。
築年数も買い手には重要視されており、新しい物件の方が好まれる傾向もあります。
逆に築年数が数十年と長いと価値が下がることもありますが、修繕やリフォームである程度カバーすることもできます。
立地を重視して不動産を選び適度に修繕やリフォームをすることで、資産価値の上乗せにもつながります。
インフレは必ずしも悪いことではありませんが、貯金のみなど何の対策もしないと悪い影響を受けますし、万が一ハイパーインフレにでもなったりしたら、より悪い影響を受けることが考えられます。
インフレやハイパーインフレの対策として、有価証券の投資、不動産など今からでもできることはあります。
不安な点は不動産の専門家に頼りながら、確実に資産防衛していきましょう。