2020年初頭から始まった新型コロナウイルスの世界的流行。2023年に入りようやく終息傾向に向かっていますが、日本だけではなく世界中で人流や経済活動に大きな影響を及ぼしたこの混乱の期間、日本の地価にはどのような変化があったのでしょうか。
この記事では、まず2022年から2023年の地価の変動について日本全国と3大都市圏のトレンドを分析し、次に東京都を中心とした首都圏と東京23区内に焦点を当てた分析を行います。
国土交通省が発表した最新地価によると、2023年には日本全国の地価が前年より平均1.6%上昇しました。2020年の新型コロナの発生前の前年比1.4%の増加から、2021年には0.5%のマイナス成長に至りましたが、2023年にはついにコロナ前の水準を回復しています。その中で、住宅地の上昇率も前年比1.4%となり、2020年の0.8%を大きく上回る成長を見せました。一方、商用地の増加率は前年比1.8%で前年比3.1%だった2020年の半分程度に過ぎず、商業地の地価上昇率はまだコロナ前の水準に回復していないことがわかります。
次に、東京圏、大阪圏、名古屋圏などの3つの大都市圏の住宅地と商業地の変化を4年間にわたって見てみましょう。
三大都市圏の中で地価変動率が最も大きいのは名古屋圏で、全体で平均前年比2.6%となっています。住宅地と商業地の価格はそれぞれ前年比2.6%と3.4%上昇し、2020年のデータを上回っています。東京エリアは地価が平均前年比2.4%上昇しており、名古屋エリアに次ぐ増加率となっています。住宅地と商業地の価格の平均上昇率は、それぞれ前年比2.2%と3.0%です。名古屋エリアと同様に、住宅用地の上昇率は2020年の水準を超えていますが、商業地はまだそこまでの回復を見せていません。大阪エリアは地価の上昇率が全体的に低く、平均上昇率はわずか1.2%。商業地の上昇率が2020年の水準の半分と伸び悩んでいることが大きな理由です。
続いて、東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)の住宅地と商業地の価格変動を分析します。
下のグラフから、コロナ禍の影響を受ける前は、東京エリアの地価が増加しており、特に商業地の地価の増加率は東京圏で最も大きく、2019年比からプラス7.2%と大きく成長したことがわかります。対して神奈川県の住宅地は2019年比0.3%の増加にとどまり、最も増加率が低くなっています。翌年の2021年は、東京圏の各地域がコロナ禍の影響を大きく受け、千葉県と神奈川県の商業用地がわずかに増加した以外はマイナス成長となりました。特に東京の商業地は影響が大きく、2020年の7.2 %の高成長から1.9%のマイナス成長に転落しましたが、2023年にはエリアの地価は完全に回復しています。特に住宅地については、東京都を除く、他の3県が2020年より上回っています。商業地については、神奈川県を除き、商業地の地価上昇率がコロナ前の水準に戻っていません。
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次に、東京圏の各主要都市(東京23区・神奈川県横浜市・千葉県千葉市・埼玉県さいたま市)における住宅地・商業地の価格推移を分析します。下のグラフによりと、コロナ禍の影響を受ける前は、特に商業地で地価が大幅に上昇していたことがわかります。各都市とも3.5%以上の増加率ですが、特に東京23区の商業地は前年度比8.5%と大幅に増加しています。しかし、コロナ禍が猛威を振るった2021年にかけては、都市はマイナス成長か、わずかな増加にとどまりまっています。しかし2022年には増加率は再びプラスに転じ、2023年にはさらに回復傾向が強まりました。住宅地については、東京23区を除いて、他の大都市は2020年の増加率を上回っています。一方、大都市の商業地の増加率は2020年の水準には届いておらず、商業地の地価については、コロナ禍前の水準に戻っていないことがうかがえます。
これまで、さまざまな分類で土地価格の変動率を分析してきましたが、土地の平均価格の上昇トレンドだけでは、実際の土地価格がどれくらいかはわかりません。以下の図は、過去4年間の東京圏内の住宅地と商業地の平方メートル当たりの最高価格を示しており、東京圏内の地価の差異と、この4年間の変動を分析したデータです。
住宅地については、まず東京23区の地価が東京圏内で際立って高額なことが分かります。他の3大都市の4倍以上であり、コロナ禍でもマイナス成長することなく過去4年間で8.47%上昇しています。コロナ禍にあっても東京の都市部で住宅価格が上昇し続けている原因の一つと考えることができます。
また、東京23区に次ぐ上昇率が高いのは埼玉県のさいたま市であり、2020年と2021年には変動はありませんでしたが、2022年と2023年に明らかな価格上昇があり、4年間の上昇率は10.32%と、東京圏の中心都市の中では最高の上昇率になりました。さいたま市は東京圏内の主要都市であり、その潜在力は見逃せません。
一方で、東京圏内で最も上昇率の低い中心都市は千葉市であり、地価も東京23区の10分の1にも満たず、4年間の上昇率も2.43%に過ぎません。
商業地では、東京23区の地価も他の3大都市の3倍以上で際立っていますが、コロナ禍からの回復が住宅地よりも遅れており、4年間でマイナス6.76%の減少を記録しています。これは、コロナ禍によりテレワーク需要が高まり、東京都心部のオフィスの縮小や郊外への移転の動きが高まったためだと考えられ、東京以外の3都市の地価が上昇していることからも伺えます。特に千葉県千葉市は、微増だった住宅地と違い、商業地では過去4年間で16.22%の増加を記録していることが分かります。東京駅から車で1時間もかからない街の商業地の価値の潜在力を示していると考えることができます。ただし、2023年に入り各企業がテレワークの縮小や廃止の方針を打ち出していることから、今後は都心回帰の流れが加速する可能性もあり、今後の動きには注視が必要です。
東京都の人口を過去10年間のデータから見ると、2013年から2020年の8年間、人口数は13,309,575人から14,036,721人に増加し、伸び率はプラス5.46%でした。そして、コロナ禍の影響で2021年に13,988,129人まで減少しましたが、2022年に入り再び増加に反転。10月までで14,040,732人となり、既に2020年の水準にまで回復しています。
東京23区は東京都の人口が主に集中する地域であり、全体的に地価も周辺地域より高くなっています。23区の各区の地価の変動や順位を把握することは、ポテンシャルのある物件を選ぶために役立つかもしれません。
ここでは、2020年から2023年の4年間、東京23区の商業地と住宅用の地価の変動を分析します。まずは2023年の東京23区の全用地の平均価格と変動を見てみましょう。
2023年の東京23区、全体の土地平均価格で最も高い上位3区は、1位中央区(8,061,125円)、2位千代田区(5,925,933円)、そして3位渋谷区(4,665,136円)です。ただし、以下のデータによると、23区のうちに、中央区、千代田区、新宿区(5位)、台東区(7位)の4区はこの4年間マイナスの成長を記録しており、残りの19区はすべてプラスの増幅を示しています。マイナス成長を記録した4区に共通するのは、オフィス需要や観光需要の高いエリアを区内に持ち、コロナ禍の影響を他の区より大きく受けている点が挙げられます。
23区の中で最も成長率が高いのは中野区で、2020年の876,906円から2023年の944,057円と、7.66%の増幅率となっています。中野区に次いで成長率が高いのは杉並区で、5.91%の成長率で、1平方メートルあたりの地価は695,884円です。
次に、東京23区の各区における住宅地と商業地の価格変動を見てみましょう。
まず、住宅地の場合、コロナ前後の4年間で一時的に落ち込んだ区もありますが、23区全体がすべてプラスの増加を記録しています。これは、全体地価がマイナス成長になっている原因が住宅地ではないことを明確に示しています。住宅地の平均地価が最も高いのは、1位の千代田区(2,791,400円)、2位の港区(2,149,700円)、そして3位の渋谷区(1,386,700円)です。23区の中で最も成長率が高いのは港区で、2020年の2,009,310円から2023年の2,149,700円に増加し、6.99%の増幅率となっています。中野区に次いで成長率が高いのは豊島区で、6.92%の成長率で、1平方メートルあたりの地価は675,500円です。なお、1位の千代田区の増幅率はこの4年間わずか0.72%しか上昇していませんので、価格が既に最高水準に達している可能性があることが分かります。
一方、商業地の場合、コロナ前後の4年間で、23区のうち5区がマイナス成長を記録しています。その中で最も高い減少率は中央区のマイナス7.93%であり、これは商業地の地価が23区全体の地価に影響を与えている主な要因であることがわかります。2023年、最も高い3つの区は、1位の中央区(9,153,300円)、2位の渋谷区(7,248,200円)、そして3位の千代田区(6,339,900円)です。先ほどの中央区を含むこの3区は全てマイナス成長という結果で、その要因はコロナ禍でのオフィス需要や観光需要の低下と考えることができます。それは、オフィス需要と観光需要の高い新宿区と台東区もそれぞれ3.22%と1.12%のマイナス成長率を記録している点からも明らかです。23区の中で地価の上昇率が最も高かったのは中野区で、2020年の1,215,083円から2023年には1,317,800円に上昇し、8.45%の伸び率となっています。注目は足立区で、6.05%と上昇率が全体でも2番目に高くなっています。それでも地価は23区中22位。まだまだ上昇のポテンシャルを持っていると思われるため、今後の発展が楽しみです。
2020年から始まったコロナ禍は日本の地価に影響を及ぼし、それまでのプラス成長から全体的なマイナス成長に一時的にシフトしました。しかし、政府がウィズコロナに舵を切った2022年後半からは、外国人観光客の受け入れや新型コロナ感染症の5類移行などにより、経済状況は回復しつつあります。国土交通省が今年発表した地価報告によると、全国地価は2021年から上昇し続けており、2023年にはさらに大きく上昇しています。住宅地と商業地ともに2022年から3倍近い増加率を記録しています。
東京圏1都3県の地価の上昇率も一時的に落ち込みましたが、2023年にはコロナ禍前の上昇率を取り戻しています。また、東京23区についても回復傾向にありますが、コロナ禍前ほどの増加率には戻っていません。大きな要因はコロナ禍によるオフィス需要の低下と考えられますが、東京圏都心部は生活や交通の利便性が良く、商業地では、政府の観光政策や一部地域での再開発計画もあるため、商業施設や店舗の需要増により地価も上昇していくものと思われます。
日本地価の上昇は、国内だけでなく海外投資家も関心を持って注視しています。2023年、日本の地価はほぼコロナ禍前の水準に戻り、さらに上昇傾向を示しています。日本円安と相まって、日本の不動産への投資を検討する良い時期と考える海外投資家も多く、この上昇傾向は当面続くものと思われます。
※本記事のデータと図は全て国土交通省の報告書のデータに基づき集計・作成しています。