「新型コロナ禍の影響でテレワークという新たな生活スタイルが普及しつつあるため、東京の人口は郊外や他県へ移動、分散。そのため、東京の人口が一時的に減少に転じた」というニュースが広く報道されました。
しかし2022年に入ると、新型コロナウィルスが収束の気配を見せる前に東京の人口は再び増加の傾向を見せています。この記事では、東京の人口と不動産市場の最新動向についてレポートします。
総務省の「住民基本台帳人口移動報告書」によると、新型コロナウィルスが蔓延する前、2019年の東京都の転入増加数は82,982人でした。 しかし、新型コロナウィルスの感染拡大や2020年4月の緊急事態宣言の影響を受け転入増加数は大幅に減少。2020年には前年比マイナス62.5%の31,125人となりました。 2021年もこの傾向は続き、転入増加数は5,433人とさらに減少しました。
しかし、2022年に入るとこの傾向に変化が出始めました。年間最も人口移動の多い3月の数値を見てみると、2022年は増加する傾向が見られます。2020年4月の最初の緊急事態宣言が発令される直前、3月の転入増加数は40,199人でした。それが2021年3月には、27,803人となり、前年の69.2%まで減少しましたが、2022年3月では再び増加に転じ、33,171人と前年の119%となり、2020年の82.5%の水準まで回復しています。
各月のデータを細かく分析すると、2020年4月~2021年12月まで21ヶ月のうち、2020年の4月と6月、2021年の3月と4月以外の17ヶ月で、東京都の人口が減少したことが分かりました。
それが、2022年上半期(1月〜6月)の転入超過数は再びプラスに転じています。 増分はわずかですが、東京の人口減少傾向は終わったと考えることができます。
また、東京都への転入数を年齢別に見てみると、2022年3月の東京への転入総数98,812人の内、15~24歳は51,013人、全体の51.6%を占めています。このことから、全国の若年層の東京都に対する人気が続いていることが分かります。
東京の人口が一時的にでも減少した原因については、コロナ禍によるテレワークの普及等があるという指摘もあります。
しかし、総務省が発表している「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」のデータをみると、東京の人口が減少した原因は、テレワークではなく外国人の人口減少であることが推定されます。
人口の増減は出生数と死亡数の差である自然増減と、人の移動による社会増減に分けられます。2019年のデータによると、東京人口の増加数は94,193人、そのうち日本人は68,547人増(自然減18,761人、社会増87,308人)、外国人は25,646人増(自然増2,511人、社会増23,135人)でした。しかし、2020年にはこの増加数は8,600人(前年比わずか9.1%)に激減。内訳は日本人39,493人増(自然減21,008人、社会増60,501人)で、外国人は30,893人減(自然増2,469人、社会減33,362人)でした。
この30,893という人数は、2020年の東京都の人口減少の約66%に当たります。つまり、人口増加を大きく支えていた外国人の移動がコロナ禍の入国制限などで止まったことが、東京都の人口が減少に転じた原因であることがわかります。
2022年中ごろより外国からの入国制限が緩和する流れが進んでいることから、今後は外国人の社会増が再び大きくなることが期待されます。
東京都の人口を過去10年間のデータから見ると、2013年から2020年の8年間、人口数は13,309,575人から14,036,721人に増加し、伸び率はプラス5.46%でした。そして、コロナ禍の影響で2021年に13,988,129人まで減少しましたが、2022年に入り再び増加に反転。10月までで14,040,732人となり、既に2020年の水準にまで回復しています。
このような東京都の人口動態の変化は、不動産市況にどのような影響を与えるのでしょうか。2020年以降、コロナ禍は不動産市場に大きな影響を与えていましたが、2022年に入ると規制緩和なども伴って状況も大きく変わってきています。
例えば住居系については、東京への転入数減少により単身者をターゲットにした新築物件は空室率が高くなる時期がありましたが、先に触れたように若年層の転入が増加するに従い解消されてきています。
また、売買についても自用の物件を中心に動きが出てきています。これは、東京都の住人にいわゆるパワーカップルと呼ばれる公職者の共働き世帯が多いことが要因となっています。
2019年の全国家計構造調査によると、東京都の2人以上の一般世帯の50~54歳の世帯年収は1,000万円を超えており、平成29年の就業構造基本調査の結果でも、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1,000万円以上1,200万未満であり、その比率は16%となっています。そして、東京都の年収1,000万円以上1,200万円未満の世帯数の絶対数は28万9,000世帯で、年収1,000万円以上の世帯数は68万4,800万世帯となっています。
そういったパワーカップルが購入を検討している都内の新築マンションの売り上げも好調でバブル期の価格を超えても売れ続けており、それに引っ張られる形で上昇した中古マンションの価格堅調に推移しています。
東京都の人口動態と不動産市場近況をレポートしました。
東京都の人口はコロナ禍の2020年~2021年にかけて減少に転じましたが、大きな原因はテレワークによる郊外転居ではなく外国人の人口減少であることが推定され、2022年に入り回復傾向が進んでいます。
回復の主な要因は15~24歳の若年層で、2022年の3月では、転入数の半数以上を占めていました。今後は減少に転じていた外国人の社会増も回復していくことが期待されるため、さらなる増加が期待できます。
不動産市場についても、人口が増加に転ずることで賃貸需要の回復が期待でき、売買についても高収入のカップルが東京に集中しているため、新築マンションや中古マンションの高価格が続くだろうと思われます。
※本記事のデータと図は全て総務省の報告書のデータに基づき集計・作成しています。