投稿日:2024年10月16日 更新日:2024年10月16日

錆落下防止事例│多角的な視点から改修工事の優先度を判断。予防保全で差が出る管理会社の実力。

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ビル管理の基本である定期点検。定められた箇所をマニュアルに沿って点検しますが、その際周囲にも意識を向けて問題を発見、修繕を経て、事故を未然に防ぐことができた事例をご紹介します。株式会社アドバンス・シティ・プランニング(以下ACP)渋谷支店・業務管理課の舌間さんにお話を伺います。


ACP舌間さん

―1977年竣工のトラスト・リンク第Ⅲビルの屋上の点検で錆を発見したとのことですが、経緯を説明していただけますか。

舌間:はい。高架水槽の定期点検時に屋上に昇りまして、その際に過去に看板が設置されていたフレームの塗装が剥がれて錆びているのを発見しました。
錆に関して言えばビルを点検しているとわりとよくある事象です。もちろん直すに越したことはないのですが、緊急度が高いかと言われるとこの時点では「そこまでではない」段階でした。ただ錆や塗装の剥がれが固まりになっているので、これが落下して、万が一歩行者に当たってしまうと最悪の場合、命に関わります。
このトラスト・リンク第Ⅲビルは1Fに蒙古タンメン中本さんが入っているビルでして、1ヶ月くらいの間、大規模な内装工事を行うことになっていました。こちらの中本さんは普段からかなりのお客様が並んでいる場所でしたので、内装工事終了後はさらに大勢の人が、通りに滞留することが予測されました。その点を加味すると落下物の危険度がより一層高くなることから最優先で直すことを提案し、オーナー(北辰不動産株式会社)様の了承を得まして修繕工事に至りました。フレーム錆

―工事発注については特に問題なく進めることができたのですね。

舌間:実際のところ改修工事の項目は不具合を挙げていけばいくらでも出てきます。その中でどれを優先するのかというのが難しい判断になります。その判断の大きな目安になるのが、不具合によってどこに影響があるのかということです。
私がとりわけ重要視しているのが人命に関わる可能性がある不具合についてです。例えば外壁のタイルの落下で人にぶつかったら、最悪の場合、亡くなってしまう可能性もあるわけです。
今回の錆の落下についても、タイルほどではなくても最悪のケースの可能性を考え、緊急度の高いものとして強く進言しました。

 

―今回の錆についてはさほど大きくないとこのことですが、大きい場合はどれくらいのサイズになるのですか。

舌間:大きくなると拳大くらいになることもあり、結構重たいです。かつそれが屋上から落下してくることを考えれば衝撃度はかなり大きくなると思います。今回のケースで言えばそこまで大きくなっていなくて、当たったとしても大怪我になる可能性は少ないとは思いましたが、今後の予防保全の観点から間違いなくやったほうがいいという判断でした。

―このような改修工事は何年ごとに定期的に行うというよりは、不具合を発見したらその都度行う感じですか。

舌間:そうですね。例えばエアコンや給水の増圧ポンプといった耐用年数があるものに関しては交換の目安があります。しかし今回のような建築の部分だと目安があるにはあるのですが、基本的には不具合を見つけたら、その都度提案をする形になります。

―そうすると発見するかしないかで、場合によっては放置されてしまうかもしれないのですね。

舌間:それはありますね。

―点検は目視が基本ですか。

舌間:そうです。ただ最近はドローンを使った調査を行うケースもあります。
このトラスト・リンク第Ⅲビルでも、今回とは別の機会ですが、外壁のタイルの浮きについてドローンによる赤外線で調査を実施しました。タイルがどれくらい浮いているか、どれだけ水を含んでいるかなど劣化状況が詳しくわかりますので、調査に関する技術の進歩を実感しています。
その一方で一番よく行われるのは、やはり人による目視ですね。

―今回のような錆の場合、具体的にどのような作業工程なのでしょうか。

舌間:作業中に落下しないように全体に養生しまして、内側から塗装していきました。作業自体も1日で終了しています。錆びている部分をケレンがけして、表面の塗装を剥がしてから新しく塗装し直します。

―この錆ですがもともと何の調査の時に発見したのですか。

舌間:高架水槽を置く台の朽化が進んでいたので、その調査を行った時に併せてこちらの不具合も発見しました。高架水槽の台も調査の結果、修繕が必要との判断に至りました。高架水槽の塗装の剥がれ

―両方とも修繕が必要ですが、錆の落下防止の方が優先度が高いという結論になったわけですね。

舌間:そうです。人命に関わることでしたので緊急性が非常に高いと判断しました。判断の基準として、基本的に人命が一番、その次がライフライン(水道・電気・ガス)、店舗の場合は営業に関わる部分になります。そこを重視して調査を行っています。

―工事を行うにあたってテナント様と、もめたりすることはありますか。

舌間:今回に関しては一切ありませんでしたが、一般的にはよくありますね。例えば音や振動が発生してしまう工事の場合、日中に営業しているテナントさんだと、工事の時間帯をずらして欲しい等言われることが多いですね。

―そういうケースはPMと連携して対応するのですか。

舌間:そうですね。PMや場合によってはビルオーナーである北辰さん(※北辰不動産が所有のビルの場合)とも一緒に調整にあたります。ある意味こういった調整がこの仕事で一番時間がかかって難しいところかもしれません。

 

―自社でPMも請け負っていることで協力できるのはメリットですか。

舌間:そうですね。総合管理だと関係部署が協力しながら調整や作業に当たれるのは大きいです。DSC_0373

―ACPがBMを請け負っていて、PMは別の会社がやっている場合もありますか。

舌間:ありますね。そのような場合、私たちがやる工事に関しては告知やテナントさんとの交渉などもこちらでやることが多いです。

 

―仮に落下事故などがあった場合、基本的にビルオーナー(北辰不動産)の責任になると思いますが、ビルオーナー(北辰不動産)と管理会社(ACP)の間では、どういったやりとりが発生しますか。

舌間:今のところそういった事案がないのですが、事前に予期することができたのに何も伝えてなかったのであれば、やはり管理会社に問題があると思いますね。
ACPで委託されているのは設備管理ですが、今回のような予防保全についても責任を持って取り組んでいる業務です。ですから、その中で適切な提案ができていなかったとしたら、その点では問題であると私は考えます。実際のケースでは様々な事情がありますので、あくまで一般的な考え方ですが。不具合が起きてからそこを直すのは比較的簡単なのですが、こういう予防保全ができるかできないかで、管理会社の差が出るところだと思います。その点、ACPはどの担当者も予防保全の観点を持って現地を見ていますので、自信があります。
特に今回については中本さんの内装リニューアルの件があったので、よりアンテナを強くして見ていたと言えます。ACPでは保守課が主に現場で検針や点検、工事の立ち会いなど担当し、不具合を見つけたら業務管理課に共有し、業務管理課は主にオーナー様とのやりとりを担当します。

 

―舌間さんは業務管理課でオーナー様に提案などを行うとのことですが、テナント様とオーナー様との間で板挟みになることはありますか。

舌間:ありますね!金額が高い工事になるとオーナー様から「この工事は本当にやる意味あるの?」と聞かれることはすごく多いです。
きちんと根拠を説明して、納得していただける提案をするのが腕の見せどころと言っていいと思います。提案したことに対して「じゃあやるしかないね」とご理解いただいた上で工事の発注に至るのが一番のやりがいにつながっています。
同じ不具合でも、ただ報告書と見積もりを出すだけでは忙しいオーナー様も判断が難しいと思います。我々管理会社はオーナー様から一任してもらっている以上、しっかり説明して理解していただくことが責務です。

―現場で不具合を発見することについて、どうしても担当者レベルで個人差が出てきてしまう恐れはないでしょうか。

舌間:規模の大小を問わず全ての事案というわけではありませんが、社内で情報共有するシステムがあり、各支店の全員が認識を共有するようにしています。
予防保全に関しては、人間がやっている以上どうしても個人差が出てくる分野ですし、またオーナー様もお一人お一人考え方も異なってきますので、可能な限り社内の対応を揃えていくための情報共有は特に重点的に行っており、ACPの強みでもあると考えています。
今回のような事故を未然に防ぐことができた事例を積み重ねていくことで、オーナー様との信頼関係を作っていくことが大事だと思います。信頼関係の構築の結果、オーナー様が「新たに購入した物件の管理も任せたい」とおっしゃっていただくと、とても励みになります。

 

―改修工事では協力会社に作業を発注することも多いですが、協力会社によっても技術などにばらつきが出てくる可能性があると思います。ACPでは担当の個人ごとに協力会社の選定を行うのですか。

舌間:弊社が管理棟数1000棟を目指すなかで、協力会社の確保は大きな課題になっています。
各担当者の個人レベルで発注する協力会社に偏りがあると、ひとつの協力会社に作業が集中してしまったりすることがあります。そこで今年になって社内で「新規協力パートナー推進委員会」を発足させ、各支店で委託している協力会社をリスト化し、かつ新規の会社とも面談して我々の求めるレベルに合致していれば弊社の協力会社としてリストに追加していく取り組みを行っています。
管理棟数の増加に伴って増える改修工事にきちんと対応していくために、発注の偏りを分散させて社内の足並みを揃えていくことを目指しています。

―会社の規模が大きくなるにつれて、それに対応するための体制を整えていっているのですね。

舌間:会社が大きくなっても人によって差が出てきてしまうことのないように、全員の目線を統一させて業務に取り組むのが管理会社として大事なことだと思います。管理棟数が増えても一棟一棟の管理の質が低くなっては意味がないことだと思いますし、オーナー様からの信頼も失いかねません。そうならないように委員会を作って共有活動をしっかり行って頑張ってまいります。

―どうもありがとうございました。