建築物のライフサイクルコスト(LCC)とは|建物の資産価値の維持・向上に必要な備え
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- 管理建築士
- 森峰 恒平
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ライフサイクルコスト(LCC)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。特に建物(不動産)は建築してから長い期間運用していく事業です。建築コスト以外にも、保有している期間には様々な費用が発生します。何にどんな費用がかかるのか長期的な視点から解説します。
ライフサイクルコスト(LCC)とは
ライフサイクルコスト(Life cycle cost)はビルなどの建築物だけでなく、製造物についても使われる言葉です。
建物の場合は、企画や土地の取得・設計・施工工事費などのイニシャルコストから、建物を使い続けるために必要な費用で、用水光熱費、改修・修繕費、消耗品費、一般管理費、運営管理費、税金、保険などのランニングコスト、そして最終的な解体費用までを含めたすべての生涯費用(コスト)がそれにあたります。
建設費は氷山の一角?
ライフサイクルコストはよく氷山にたとえられます。水面から出ている部分を建設費とすると、最初に目にしたときに非常に大きく感じますが、実は全体に占める割合としては意外に小さいというものです。むしろ建築直後から発生する改修・修繕工事を含むその後のランニングコストの方が、ライフサイクルコストに占める割合は大きいといわれています。
ライフサイクルコストの構成
ライフサイクルコストを構成する要素を具体的に見ていきましょう。
【建設費】建物の企画・土地取得・設計・施工など
【運営管理費】点検・保守・清掃費など
【用水光熱費】電気・上下水道費・ガスなど
【一般管理費】施設の運用・税金や保険費用など
【改修・修繕費】定期的なメンテナンスや修繕、リニューアル、バリューアップ(新技術導入による資産価値の向上)など
【解体処分費】建物の撤去・運搬・最終処分など
上記の建設費がイニシャルコスト、それ以外から解体処分費を除いた部分がランニングコストとなります。そして一般的にランニングコストがライフサイクルコストの大部分を占めるケースが多いといわれます。ただし建設費の占める割合が他より多いものや、用水光熱費が多いものなど、建物の用途によって大きく異なる場合がありますので個別にみていく必要があるでしょう。
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ライフサイクルコストを低減するには
鉄筋コンクリート造のビルの場合、法定耐用年数は47年とされていますが、実際の運用次第で建物の使用期間は大きく変わってきます。ライフサイクルコストを低減するには企画・設計段階から総合的な取り組みが有効です。
例えば部材を耐久性があり長寿命のものを採用する、清掃しやすいデザインや更新しやすい仕様にするといったことのほか、用水光熱費削減のために断熱に優れた材料の選択や安価な深夜電力の利用、照明に人感センサーをつけるといったことなどがあげられます。
動く物、例えば給排水用ポンプ類、電動シャッター、昇降機、照明器具や鍵類にも耐用年数等が各メーカーや協会より出ていますので定期的な更新が必要な物のコストを考慮した建物計画が必要です。
特に給排水設備、電気設備の幹線は30年前後で更新する必要が出てきますので、設備等の更新を計画した建物設計をする事も考える必要が有りますが、パイプスペース等を大きくとると収益面積が狭くなる(レンタブル比の悪化)等、設計者の知識・感性が必要になる事もあります。
建物の資産価値を維持・向上していくには
建物の企画・設計時からライフサイクルコストを考えて計画することが望ましいのですが、すでにビルをお持ちの場合はどうしたら良いのでしょうか。建物は、建てた直後からその資産価値は下がっていくと言われます。現代は老朽化(築年数による劣化)のみならず、目まぐるしい技術の発展により生活レベルが向上し、それに伴い建物は以前にも増して年々高いレベルの維持管理・新技術導入が求められています。
そんな状況の中、何もせず放っておけば、建物の老朽化(築年数による劣化)は急激に進み、資産価値は下がる一方です。
そこで、建物の資産価値を維持するためには、定期的なメンテナンスや改修・修繕工事が必要不可欠です。外観の美しさ、設備の機能を保ち、又新技術の導入により、耐用年数・効率性を高めていくことにより、建物はその資産価値を維持・向上させていくことが出来るのです。
しかし改修や修繕工事を計画的にされているオーナー様は、とても少ないのではないでしょうか?改修・修繕工事と言っても、その内容はビルによって多岐にわたり、またトータル的に多大な費用が発生し、無計画にできる工事ではありません。
まずは、しっかりとした費用の確認と計画が必要になってきます。
既存建物は図面上、建築の様式・仕様、設備機器等の設置年月・改修履歴等により経年によって改修・修繕する時期等が大まかに分かります。さらに実際の建物調査で直ぐに治す必要が有るか、まだ1~2年から数年は大丈夫か等の判断をして長期修繕計画を立てる事が必要になります。
上記、大まかな長期修繕計画を基に各修繕・改修費用を各々の専門業者に依頼して費用を算出し今後30年~40年に掛かる改修時期に割振りライフサイクルコストを把握する事が必要です。
ライフサイクルコストを基に、長期計画的に予算を把握し、且つ有効的に、改修・修繕計画を立てることが、ビルの機能を継続的に維持・向上していくことに繋がるのです。
まとめ
修繕工事に決まりきった常識はありません。適切なメンテナンスの有無で改修・修繕費の総額に大きな差が出ることもあります。ビルのライフサイクルコストの予測を立てつつ、最適な改修・修繕計画を立てることを考えてみてはいかがでしょうか。
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- 森峰 恒平
株式会社アドバンス・シティ・プランニング 建築課課長 / 1980年奈良県出身。管理建築士・設備設計一級建築士・一級建築施工管理技士。修繕、リノベーションのエキスパート。
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