ある程度、不特定多数の入居者をターゲットとした賃貸マンションの設計と個人住宅や特定企業様の本社の設計では、何を重視するかが異なるべきですが、言葉では理解したつもりでも、いざ自分で賃貸マンションを建てようとすると、つい、自分の住宅を建てるのと同じような感覚で、自分の好みの個性的なデザイン設計を重視してしまい、建築コストが膨らみ過ぎたり、清掃しづらいデコレーションをしてしまって管理コストが高くついたり、ということが起きてしまいがちです。
そこで、今回は近代建築の巨人と言われる有名な建築家が建てた世界一有名な住宅をご紹介します。
それがこちら・・・フランク・ロイド・ライトの設計による「落水荘」です。
人間は、こういう極端な比較事例を見た方が、ものごとの本質を理解しやすい、と言われていますので、敢えて賃貸マンションの設計とは対極にある建築作品にまつわる逸話をご紹介させて頂きます。
この落水荘は、アメリカのデパート「カウフマンズ」のオーナーの別荘として1936年に着工し1937年末に竣工した建物です。
ライトは若くして名建築家として名声を得ていましたが、その後、度重なるゴシップや、使用人がライトの家族をオノで惨殺して放火するという大スキャンダルが起きる等してスランプに陥っていたことから、当時はライトに設計を依頼することは、もはやリスキーなことでした。
しかし、そんなスランプ状態のライト(当時68歳)に設計が依頼されたのは、カウフマンの子息がライトの弟子だったことが最大の要因だったようです。
落水荘の立地はペンシルベニア州ピッツバーグから約80kmの場所にある森林の中の滝の上。
現地を視察したライトが建築場所を尋ねた際に、カウフマンは「滝の上に出ている岩」と答えたそうで、完成した建物は本当に滝の真上で、カウフマンお気に入りの岩が建物の暖炉前の炉床になっており、カウフマンの度肝を抜いたそうです。
そして、この落水荘をきっかけにスランプを脱して、名作と言われるジョンソン・ワックス本社やグッゲンハイム美術館へとつながるライトの第2期黄金時代がスタートしたと言われています。
落水荘は滝の上にあるだけに、経年変化には耐えられずテラス先端が垂れ下がってしまった為、2002年に改修されて現在は鉄骨で補強されています。
この落水荘は遺族から西ペンシルベニア州保存委員会に寄付されて一般公開されていますので、見学することも可能です。
落水荘は森の中の滝の上という常識では有り得ない立地に建てられたことで、ミースのファンズワース邸と並んで、世界一有名な住宅と言われている訳ですが、ファンズワース邸は洪水の憂き目にあったり、この落水荘はカンチレバーのテラスが崩落の危険に晒されたりと、いずれの名建築も敢えて大自然の中に溶け込むように作られながらも、その自然が建物をいつしか飲み込んで風化させようとしているかのようです。
落水荘の建設をめぐっては、地元建設業者がこの立地への建設に反対したにもかかわらずライトは意に介さずに続行したとの逸話もあるようです。
落水荘は純粋な建築論議の的になるだけではなく、数々のゴシップ、トンデモ話等にも事欠きません。
・アインシュタインやフリーダ・カーロといった有名人が招かれたことがある。
・この建物の安全性を巡ってカウフマンとライトに確執が起きたらしい。
・カウフマンの浮気に苦しんで自殺したカウフマン夫人の幽霊が出るらしい。
幽霊が出る噂まであるとは驚きですね。
さて、いかがでしたでしょうか?
こういう個性的な芸術作品のような住宅を建ててみたい、というのも不動産の醍醐味であり、このように歴史に残る名建築というのも是非、一度訪問してみたい、と思いますが、賃貸用のビルやマンションでこのような建物を建てたらいかに大変なことになるかは容易にご想像がつくはずです。
やはり、建物の設計も、目的に応じた最適な設計、というものがあるのです。(by T.I.)